連載「ねコラム」では、当協会 理事・会員の皆様からネーミングに関することをご紹介いただきます。
第3号も、当協会理事の岡田直也氏からの発信となります。
*月1回の配信。岡田直也氏には全3回の連載をご担当いただきます。
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残念ネーミングの、おはなし。
いつもなら、いいと思ったネーミングを紹介していくところを、今回だけは逆に、「えっ?」「なんで?」と思わざるを得なかったものについて書いてみよう、と思います。この「日本ネーミング協会」が、ジャーナリズムの一端を担うべき存在であるとするならば、そういう、批判的な論を展開するのもアリかもしれない、と思うからです(もちろん、岡田直也個人の意見ですが)。
ふたつのことについて、話をします。
まずひとつめは、JR山手線の駅名、高輪ゲートウェイ。
これ、初めて聞いたとき、けっこうな違和感を覚えました。その違和感はいったい、どこから来るんだろう・・・ちょっと考えて思い当たったのは、ちかくを走る「りんかい線」。なるほどこの線の駅名は、大崎を出て大井町、そのつぎが「品川シーサイド」、「天王洲アイル」、「東京テレポート」(ダイバーシティ東京プラザ前)となっている。さらにそのつぎの国際展示場駅には、「東京テレポート前」というサブタイトルがつく。つまり、高輪ゲートウエイという文字列は、これらりんかい線の駅名の命名法とまったく同じもの、ということになるんですね。それに近隣の「汐留シオサイト」を加えれば、東京湾岸部には、漢字+カタカナの構造を持った駅がずらり並ぶ、ということになります。
(ついでに言えば、「汐留シオサイト」というネーミング、ぼくは「赤坂サカス」と並んで、歴史にのこる秀逸なもの、と思っています。いや、話がそれました。もとに戻しましょう。)
そういう、りんかい線の駅と見紛うようなネーミング、それが「高輪ゲートウエイ」なわけです。違和感のひとつめはそこ。じつは、山手線の駅名というのはみんな、由緒あるいわれをもったもの。時代に媚びたりしていない。いちばん新しい駅名「恵比寿」にしても、もちろんビールにちなむものでありながら、ぐっと定型に抑え込んでいる。「ヱビス」などとカタカナ表記にしないのがよかったわけで。こんな、高輪ゲートウエイなんてのを山手線の駅名に採用するのは、秋葉原を「アキバ」に替えるくらい、ヘンテコなことだと、ぼくなんかは思ってしまいます。
違和感のふたつめは、「ゲートウエイ」。これ、単なる入り口以上の意味がない。ここにはなんにもないんですが、ただ道はつづいています」と言っているだけにすぎません。じつはものすごく困った名前なんですよ。一瞬、なにか新しそうな感じはするんですが、じつはノンセンス、というわけ。
たんに「高輪」だけでよかったんじゃないか、と思う。あるいは「芝浦」か。いや、芝浦はたしか、ゆりかもめの駅名にあったから、「新」をつけるとか。いやいや、落語にちなんで「芝浜」でもよいかも知れない。山手線の駅名には、そいうったものが似合うんですよ。カタカナなんかつけちゃダメ。ぼくは、そう信じて疑いません。
さて、もうひとつの「残念ネーミング」、見ていきましょう。
それは、ブラックフライデー。
これ、ここ数年で人口に膾炙するようになってきました。とくに今年は、amazonがTVコマーシャルを打っていましたね。もともとは、欧米の謝肉祭~感謝祭から来ていて、クリスマス前の一大商戦のためのムーブメント、ということらしいです。それが、日本市場にも上陸してきた、ということなんですね。
ただ、日本はどうなのかなあ。昔ほどには言われなくなったにせよ、歳暮・クリスマス・正月・バレンタインの各商戦はまだ残っているし、ノンシーズンでポイント貯める習慣がついてしまったし・・・どうだろう。あんまり広まらないのではないかなあ。
いやいや、そんなことより、この「ブラックフライデー」なるネーミングのほうがモンダイではないでしょうか。だって、まず連想するのは、「ブラックマンデー」でしょう? あの株式大暴落の。ブラックとは黒字のことだから、商売上は縁起がいい、なんてネットには書かれてましたけど、とんでもない、ブラックのネガなイメージ総量は、黒字の100倍、1,000倍はあるんじゃないかと思いますよ。
じゃあ、ブラックフライデーを、日本語に訳してあげればいいのかな。「黒い金曜日」・・・ダメですね。ものすごい不吉な感じがします。いっそ「黒金」・・・すこしはいいかも知れないけど、なんか猫のごはんのような。じゃあ、黒の字をやめて、「玄金」としたら?・・・ちょっと意味がわからなくなってきたな。
いや、ひとつあった!「黒札セール」はどうだろう?
赤札というのが、赤で線を引き、安い価格を書き込むことだから、黒い手書きの字で、正価そのものを下げてしまおう。うん、これがいい。「金曜日」は、どっか行っちゃったけど・・・。
文句言ったら、ちゃんと対案を考える。こういう姿勢は、うん、だいじですよね(なんかエラそうで、すみません)。
日本ネーミング協会 理事
コピーライター
岡田直也