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ねコラム vol.4『“変さ”あふれる「ミャクミャク」』

連載「ねコラム」では、当協会 理事・会員の皆様からネーミングに関することをご紹介いただきます。

*月1回の配信。第4号は、当協会理事の飯田朝子氏からの発信となります。

 

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“変さ”あふれる「ミャクミャク」に決定

 

 2025年大阪・関西万博の公式キャラクターの愛称を決める選考委員を拝命した。公式キャラクターはご存知、赤と青の体をした謎の生物。赤い部分は万博のロゴ、青い部分は変幻自在に形を変えられる水をモチーフにしている。4月から5月にかけてキャラクターのネーミング案を一般公募し、世界中から33,197件もの応募があった。6月から7月にかけて一次選考を行い、万博開幕の1000日前となる7月18日に最終選考にて正式に「ミャクミャク」に決定した。

 

 選考委員長はコピーライターの仲畑貴志さん。大阪出身のシンガーソングライターaikoさん、ルミネの広告を手掛け飯田ゼミの講師にも来てくださった尾形真理子さんを始めとして、グラフィックデザイナーの原研哉さん、キャラクターをデザインした山下浩平さんといった名だたる委員の先生方と一緒に、ネーミングをめぐって格闘した。

 

 一次審査では、既存のキャラクターを連想させたり、大阪弁のノリ・ツッコミを彷彿とさせる名前が多かった。しかし、英語、中国語、フランス語、ドイツ語などの主要外国語からラテン語に至るまで多言語チェックを経ると、世界の言語では必ずしも良い意味にはならないものもあり、泣く泣く候補から除外した。ここで絞った候補作品を商標チェックにかけ、通過したものを最終審査で審査するという段取りで進んだ。

 

 万博ではキャラクターグッズなどを幅広く展開する予定もあって、商標チェックは全領域に及んだ。委員が「いいな」と思った名前の多くが全領域のチェックをクリアすることができず、最終検討案はだいぶ少なくなっていたものの、その中から1つを決める作業には頭を悩ませた。

 

 私がこだわったのは「このビジュアルにマッチした”変さ”」があること。見た人が「なーんだ」と思うような普通のものではダメだ。その点、「ミャクミャク」は脈打つ生々しさがあって、このキャラクターのキモカワな容姿に「なんや、これ!」と言いたくなるほど合っている。一度聞いたら忘れない。大阪の人達でさえ予想しなかったような”変さ”があるのはこれしかない、と思って、私は「ミャクミャク」に1票を投じた。

 

 

最終審査会を終えて:写真は著者撮影

 

 

日本ネーミング協会 理事

中央大学 国際経営学部教授 言語学者

飯田 朝子